より小規模な暗号資産企業の間でも 同様の動きが見られる
仲介者を必要とせず、コードが支配する金融システムの確立を目指す暗号資産にとってはプラスに聞こえるかもしれないが、銀行へのアクセスができない状況への回帰は、暗号資産業界の多くにとって壊滅的なダメージとなる。
しかし、そのような事態になる可能性は低いだろう。今後、良く知られた多くの銀行が暗号資産企業と取引するようになるはずだ。より明確な規制のもとで弱気相場を生き抜いた、あるいは弱気相場の中でスタートして成熟した暗号資産企業は、厳しい規制を遵守し、厳しい監視を受けることになる。
より小規模な暗号資産企業の間でも、同様の動きが見られる。Wave Digital Assetsは緊急事態用の計画を準備していると、シーマーは言う。まだ同社は米国からの撤退を検討していないが、取り締まりに関する懸念から米国での新規雇用を中止しているという。
24年に大統領選挙が控えていることもあり、今年中に包括的な暗号資産規制法案が議会を通過するようなことはないだろうと、6年にわたって下院議員を務めたAstra Protocol顧問のマルバニーは言う。法案通過が絶望的である一方で、暗号資産が「超党派」で取り組める課題であるというポジティブな面もあると、マルバニーは指摘する。
シグネチャーとそのライバルであるシルバーゲート銀行(Silvergate Bank)は、どちらも昨年、暗号資産関連の顧客が預金を引き出したことで、驚くほどの額の預金を失い、大恐慌時代に住宅業界を支えるために作られた連邦住宅貸付銀行(FHLB)から融資を受けている。暗号資産業界には、政府系金融機関、つまり納税者という最後の貸し手が存在していたわけだ。
しかし暗号資産企業コッパーのエバ・グスタブソン氏は、EU以外で法的な枠組みが欠如しているため、世界的な基準に関するコンセンサスが形成されるまでは、EUの規則が国際基準としての役割を担わざるを得ないとの見方を示した。
業界が十分に変化して、ウォーレン議員があげたような評判上のリスクが過去のものとなることが望ましい。暗号資産はすでに、自らを売り込む新しい方法を学んでおり、政府による監視と規則の強化によって、永遠に変わるだろう。
SEC委員であるピアースは、SECの目的は暗号資産技術を用いた実験的な試みを安全にできるようにすることであり、暗号資産業界を海外へ追い出すことではないと説明している。一方で、SECが暗号資産業界を追い出そうとしていると思われても無理はないと、ピアースは理解を示している。
一方、アメリカの3つの政府機関は1月、銀行に対して暗号資産との関わりをやめるよう強く求める声明を発表。1月3日付の共同声明で米連邦準備制度理事会(FRB)と米連邦預金保険公社(FDIC)、米通貨監督庁(OCC)は、暗号資産の発行または保有は「安全で健全な銀行業務とは相容れない可能性が非常に高い」と述べた。
普段は激しく対立する民主党と共和党だが、暗号資産は両党が重んじる自由主義に通じる点がある。つまり、両党が法案に取り組むにあたって「党の垣根」が影響することはないということだ。
こうしたなかステーブルコイン「USDC」の発行元であるCircle Internet Financialは3月下旬、欧州事業を担当する本部をパリに設置する計画を発表した。ブルームバーグの報道によると、コインベースも海外版の暗号資産取引所を開始する計画を打ち出している。グレワルはその真偽についてはコメントを控えているが、コインベースは「米国外の市場の成長を注視しています」と説明している。
このような状況が意味することはわかりやすい。つまり、銀行が暗号資産業界と関わることは、今後、一段と難しくなる。規制当局は、暗号資産業界の危機の影響から伝統的金融を守ったとして勝利を祝っている。FHLBの融資について語った際にエリザベス・ウォーレン米上院議員は次のように述べた。
欧州連合(EU)はこのほど、世界で初めて暗号資産を包括的に規制する「暗号資産市場規制法(MiCA)」を策定した。だが英国や米国は規制が大幅に遅れている。
規制当局が明確な規則を設けないのは、米国から暗号資産業界を締め出す意図によるものなのだと、業界の一部の人々は考えている。その意図が何であれ、暗号資産の分類、対応する規制機関、企業が政府に登録するプロセスが今後も曖昧なままであれば、暗号資産企業は揃って米国から撤退することになるだろうと、マルバニーとシーマーは言う。
EUの法案は、銀行に保有する暗号資産と同じ価値の法定通貨を保有することを義務付けている。厄介な義務のように聞こえるかもしれないが、ステーブルコインのダイ(DAI)を発行するメイカー(Maker)などのブロックチェーンベースの貸し手も採用している担保要件とそれほど変わらない。そのような貸し手は、他の暗号資産企業の破綻の影響の伝播をうまく切り抜けている。
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