金融商品取引法も40条1号で適合性の原則を規定しています
無断売買とは、金融商品取引業者または従業員が、顧客の同意を得ずに、当該顧客の計算により取引を行うことをいいます。
顧客の委託のない無断売買の効果は顧客に帰属しません(最高裁平成4年2月28日判決)。
無断売買は、顧客の自己決定権を侵害する最たる行為として、金融商品取引法36条に規定されている誠実公正義務に正面から違反するものでしし、同法64条の5第1項2号により外務員に対する行政処分の対象ともなっています。
証券取引等の金融商品取引は、投資者が自ら売買の別、銘柄、数量、価格等を指示して注文する形で行われるのが本来です。
しかし、金融商品取引業者にとってみれば、いちいち個別の注文を受けなくても、事前にある程度包括的一任を取り付けておき、預かった金額・有価証券の範囲内で売買を行い、事後的な取引報告で済ますことができれば、営業面で大変都合がよいものです。営業ノルマや営業目標を課された従業員にとっても、このような「任せの客」をどれだけもてるかが、ノルマ・目標達成に重要なポイントとなります。また投資者の中には、これらを決定するだけの十分な知識・経験を有しない者や時間的余裕のない者が大勢いるのも現実です。
一任売買(一任勘定取引)においては、証券会社従業員に広範な裁量権が与えられることになります。これが顧客に対する誠実公正義務(金商法36条)に則って行われる限りにおいては、問題もなく顧客にとっても有益なはずですが、この裁量権が濫用される危険性は極めて高いのです。
たとえば、証券会社が利回保証をして顧客から金銭を預かり、売買手数料を増やすために回転売買したりすることはもちろん、自己保有株を高値で顧客に肩代わりさせるなどといった危険すらあります。 一任売買(一任勘定取引)のもとでは、証券会社がその裁量権を濫用し顧客の予想しない取引が行われてしまうおそれがあるという意味で顧客の自己決定権を侵害してしまうことにもなりかねません。また、損失補てん・利益補てん、適合性の原則違反、回転売買・過当売買などの違法行為と一体として私法上の違法性を有するものです。
これまで「プロ向けファンド」は、売り先にプロ投資家(適格機関投資家)1者を含めば、それ以外に49人までの一般投資家にも売ることが認められていました。これは、プロ向けファンドであっても、そのファンドと関係の深い一般投資家も出資することがあることを想定したものでした。
なお、プロ向けファンドを運用・販売することは、金融商品取引法では「適格機関投資家等特例業務」とされています。
このように、明らかに顧客にふさわしくない金融商品取引を勧誘する行為は、「適合性の原則」に違反していると評価されます。投資被害の中でも比較的よく見られる類型です。
このような「プロ向けファンド」を悪用した投資詐欺を防ぐため、金融商品取引法(金商法)の見直しが行われ、この改正金商法が平成27年(2015年)5月27日に成立し、平成28年(2016年)3月1日に施行されました。
改正金商法の施行により、プロ向けファンドを一定の要件を満たさない一般の投資家には売ることが禁止され、届出業者に対する規制が厳しくなり、問題のある届出業者には業務停止命令を含む行政処分が行えるようになりました。
なお、外国において日本居住者に対する事業を行う金融関係業者に関する、外国業者の金融商品取引法等の適用の詳細はこちらをご覧ください。
株式や債券、投資信託やファンドなど金融商品は、経済状況などに応じて、収益が出なかったり元金を割り込んだりする可能性があります。
しかしながら、ターゲットが一般個人向けで、事業者側も金融機関での十分な職務経験がないようなビジネスでは、海外ライセンスは実務上、無意味です。金融庁は、海外所在業者であっても、日本居住者のために、又は日本居住者を相手方として、金融商品の取引を行う場合は、原則として、金融商品取引法上の登録が必要としています。
適合性原則は、金融商品取引業者が、投資者の投資目的・財産状態および投資経験等に鑑みて不適合な金融商品取引を勧誘してはならないという原則であり、さらに、金融商品取引業者は積極的に顧客の投資目的および財産状態について相当の調査をしなければならないという要請を含むものです。
消費者がネット取引以外の形で金融商品取引をする場合、金融商品取引業者の営業社員による投資勧誘が直接の要因または動機となっていることが多くみられます。
投資勧誘は、ともすると、これまでいわゆる収益等のノルマ達成や人事考課の成績等による金融商品取引業者の営業社員の都合でなされることが多くみらました。その結果、消費者は、本来希望していなかった高い投機性の商品を買い付けさせられたり、投資経験や能力からすると難解であり投資判断が困難な金融商品を買い付けさせられたりして、以後どう投資判断をしてよいかわからなくなり、金融商品取引業者のいいなりにならざるを得なくなることが多くみられ、最後は不測の損害を被るに至ることになります。
このような投資勧誘についての行為規制原理が適合性原則です。
金融商品取引業者の投資勧誘は、投資者の投資判断に対して大きな影響を与えることが多いことから、その実情に適合したものでなければなりません。
本来金融商品取引は投資者の自由な判断で行い、取引の結果は投資者が受け入れるべきものですが、前提として投資者の自由な判断を確保する状況的保証が必要です。投資者は、金融商品取引業者の専門知識・専門能力・情報力は投資者に勝っていると考えていますし、また、投資者に不都合な勧誘をしないであろうという信頼をもちやすいものです。
そのため、金融商品取引業者がこの信頼を奇貨として自己の都合のよい金融商品取引を勧誘するとすれば、顧客が不測の損害を被ることになります。このように投資勧誘において起こりやすい不適合な勧誘を抑制しようとするものです。
金融商品取引法も40条1号で適合性の原則を規定しています。
金融商品取引業者等は、「金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けるおそれがあること」のないように、業務を行わなければなりません。
適合性原則は業法におけるルールであると同時に、私法原理でもある。金融商品取引業者の担当者が顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した金融商品取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為上も違法となります(最高裁平成17年7月14日判決(民集
59巻6号1323頁))。
しかしながら、それだけの保護を受けているからどんな金融商品を購入しても大丈夫!という訳ではありません。
法律で定められたルールに沿った勧誘・販売・説明を
受けた訳ですから、最終的には「自己責任」が求められるのです。
わが国では助言義務という用語の意義は現状では必ずしも一義的に確立されてはいませんが、「投資者がその専門的知識等の欠如のため不合理な行動をとり、あるいは合理的な行動をとれないでいる場合に、証券会社が専門家たる地位と継続的な取引関係を基礎とする投資者からの高度の信頼に鑑み、適切な助言や情報提供をなすべき義務」を総称して助言義務ということとします。
その根拠については、基本的には勧誘時の説明義務において指摘したところがほぼそのままあてはまり、信義則により根拠づけられます。
具体的には、勧誘によらない取引時の助言義務として、「投資者が理解を欠いたまま不合理な取引に入ろうとしている際に、証券会社の担当社員において適切な助言ないし情報提供を行うべき義務」、金融商品購入後の助言義務として、「投資者が金融商品購入後にその理解や能力の欠如のため損失を防止すべき適切な行動をとれないでいる際に、証券会社の担当社員において適切な助言ないし情報提供を行うべき義務」、継続的に取引を行っている場合の助言義務(指導助言義務)として、「取引を開始した後、反復継続して取引を続けていく中で、投資者が、不合理な取引を行ったり、リスクをコントロールできなくなることにより、多額の損失を被ることを防止するため、証券会社の担当社員において積極的な指導助言を行うべき義務が挙げられます。
かかる義務に違反した場合には、信義則に反し、違法であると解されます。
過当取引とは、証券会社等の金融商品取引業者が取引における顧客の口座に対し支配を及ぼし、当該顧客の金融商品取引業者への信頼を濫用して、手数料稼ぎ等の利益を図るために、当該口座の性格に照らして金額・回数において過当な取引を実行することをいいます。
取引の過当性は、当該口座における売買数ないし売買金額が投資目的からみて過当であることを意味します。
売買の頻度が高く、売買額も大きければ受取手数料額が増大する金融商品取引業者が、自らの利益のために過当取引をし、その結果顧客は著しい損害を被るのです。
証券会社が単に顧客の売買の指示の取次ぎをするにすぎないときは、証券会社には正確に執行する義務が存するだけです。しかし、証券会社が顧客に投資助言を与え、顧客もそれに従って売買の指示をするという関係にあるときは、証券会社が顧客に対して負う義務は、それにとどまらないでより高度になります。米国法では、実質的に証券会社が顧客の口座を支配しているといえるような場合には、証券会社は受託者として顧客の利益を最大限に図る高度の信認義務(fiduciary duty)を負うとされていますが、日本でもその関係は何ら変わることはないのです。
また、顧客の財産状態・投資目的・投資資金の性質などに従って、証券取引には、おのずと適当な数量・頻度というものがあります。
他方、証券会社は顧客の売買から手数料収入を得る。顧客が多く売買をすればするほど、証券会社の利益になるのです。
したがって、何の規制もしないで放置すれば、証券会社は顧客の利益よりも自己の利益を優先して、過当な取引をする危険性があります。
特に証券会社側に顧客の口座を支配したといえるような状況があるときには、顧客の利益を犠牲にして自己の利益を図る危険性が高いといえます。
よって、過当取引があった場合、その取引を違法と評価すべきである(「証券会社が、顧客の取引口座に対して支配を及ぼして、顧客の信頼を濫用し、顧客の利益を犠牲にして手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、顧客の資産状況、投資目的、投資傾向、投資知識、経験等に照らして過当な頻度、数量の取引を勧誘することは、顧客に対する誠実義務に違反する背信的行為として、私法上も違法になると評価すべきである」名古屋地裁平成22年2月5日判決(セレクト36・28頁、名古屋高裁平成22年8月20日判決で維持。)。
しかし、FX業者にはこの特例は定められていないことから、勧誘をしていなくとも国内にある者の注文を受けた時点で金融商品取引法違反を構成します。
さらに、無登録での金集め、すなわち海外ファンドや事業投資の募集その他利殖事案のように、第二種金融商品取引業及び投資運用業の無登録営業が疑われる事案も多く見られます。また、こうしたスキームに、自称コイン、トークン、ブロックチェーンが絡むと、暗号資産交換業の無登録営業の可能性も出てきます。
まず、実勢金利よりも不利な金利で預金契約を延長されたことによる財産的損失があるといえます。これに加え、業者による違法・不当な勧誘行為が行われた場合には、自己責任とはいえず、金融商品取引「被害」であるといえます。
また、被害回復の手段としては、訴訟のほか、任意の交渉、全国銀行協会やFINMACのあっせん等のADRが考えられます。
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