暗号資産交換業 ガイドライン
そこで、改正法では、暗号資産交換業者が信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合には、利用者保護や業務の適正かつ確実な遂行を確保するため、内閣府令で定める措置を講じなければならないとしている(法63条の10第2項)。
改正法では、これまで事後の変更届出で足りていた、暗号資産交換業者の「取り扱う暗号資産の名称」又は「暗号資産交換業の内容及び方法」の変更については、事前届出を行うことを求めている(法63条の6第1項、63条の3第1項7号・8号)。
この点、暗号資産の移転に複数の秘密鍵による電子署名が必要なもの(いわゆるマルチシグ)について、当該秘密鍵の一部のみを保管する業務が暗号資産交換業に該当するかが問題となる。
また、暗号資産交換業者が暗号資産の借入れを行う場合に、取引相手方に対して一定の事項を表示する措置や、過大な借入れが行われないよう借入残高を適切に管理するための体制を整備する措置を講じること等も求められる(改正府令案23条1項8号)。
改正事務ガイドライン案では、「利用者の関与なく、単独又は委託先と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合」には、暗号資産交換業に該当するものとしている(改正事務ガイドライン案Ⅰ-1-2-2③)。
改正法では、暗号資産の売買等を自ら行わないが、利用者のために暗号資産を管理し、利用者の指図に基づき利用者が指定する先のアドレスに暗号資産を移転させる業務(暗号資産カストディ業務)についても、他の法律に特別の規定がある場合を除き、「暗号資産交換業」に該当することとなり(法2条7項4号)、暗号資産カストディ業務のみを行う事業者も暗号資産交換業者の登録をすることが必要となる。
なお、「取り扱う暗号資産の名称」または「暗号資産交換業の内容及び方法」のいずれかを変更する場合であっても、「暗号資産交換業の利用者の保護に欠け、又は暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれが少ない場合として内閣府令で定める場合」(改正資金決済法63条の6第1項)は除外されています。これを受けて内閣府令においては、取り扱う暗号資産についてその取扱いをやめようとする場合、取り扱う暗号資産において用いられている技術または仕様の変更を理由として当該暗号資産の保有者に対して新たな暗号資産が付与される場合、暗号資産交換業の内容または方法のうち所定の事項以外の事項を変更しようとする場合(暗号資産交換業者に関する内閣府令11条)は事前の届出を要しないとされています。
改正前の資金決済法においては、登録申請書記載事項を変更する場合は事後の届出が必要とされていましたが、改正資金決済法においては、登録申請書記載事項のうち「取り扱う暗号資産の名称」または「暗号資産交換業の内容及び方法」のいずれかを変更する場合、原則として、事前の届出が必要とされることとなりました(改正資金決済法63条の6第1項、63条の3第1項7号、8号)。
さらに、暗号資産交換業者に対し、暗号資産の流出等により、利用者の暗号資産の返還に関する債務が履行できなくなった場合における債務の履行方針を公表し、かつ、実施する措置を講じることを義務付けている(改正府令案23条3項)。
ただし、利用者からの移転指図に迅速に対応する等、利用者の利便確保等を図るために、暗号資産交換業者が管理する利用者の暗号資産全体の5%(日本円換算額)に相当する数量の暗号資産を上限として、必要な最小限度の暗号資産を、安全性の高い管理方法以外の方法(すなわちホットウォレット等)で管理することも許容されている(改正府令案27条2項)。
改正府令案では、業者の財務の健全性を利用者等が認識できるようにする観点から、暗号資産交換業者に対して、貸借対照表や損益計算書を公表する措置を講じることを義務付けている(改正府令案23条1項7号)。
改正法では、暗号資産交換業の広告に関し、暗号資産が法定通貨ではないこと等の一定の事項の表示を義務化している(法63条の9の2)。
当該記載からすれば、例えば、(1)秘密鍵が2つ存在し、その移転に両方の秘密鍵が必要な場合で、業者がその1つのみを保管し、顧客がもう1つを保管しているような場合には、暗号資産交換業に該当しないが、(2) 秘密鍵が3つ存在し、移転には2つの秘密鍵が必要な場合で、顧客はそのうち1つのみを保管し、残り2つを業者Aと業者Aから委託を受けた業者Bが保管しているような場合には、少なくとも業者Aは「委託先と共同して暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有」しているといい得るため、暗号資産交換業に該当し得ると思われる。
これにより、暗号資産交換業者の登録を受ける者については、自主規制団体への加入が事実上強制される仕組みとなっている。
さらに、改正府令案では、暗号資産交換業者に対し、暗号資産の特性等に照らして、利用者保護に欠け又は業務遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる暗号資産を取り扱わないために必要な措置を講じることを義務付けている(改正府令案23条1項5号)。
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